富士電機(株)における活用事例 その2

炊飯過程の温度変化を再現し、社会や仕事との関係を学ぶ

富士電機株式会社

1.はじめに

一般社団法人日本電機工業会(JEMA)では、次世代を担う科学技術人材の育成のため、早期段階から社会と結びついた理科教育を支援する活動に取り組んでいる。
JEMA による支援の特徴は、学習指導要領に即した授業案・教材(以下、JEMA プログラム)を小学校教員向けに提供し、教員研修という形式で行ってきたことである。
JEMA プログラムは、理科教育支援委員会にて作成・普及・展開を実施しており、会員各社におけるCSR 活動のツールとしてご活用いただいている。また、JEMA プログラムは、電機業界の特徴を生かして、電気製品がどのように動き、制御されている
のかなど、子どもたちの疑問を喚起しつつ、主体的に探究心を持って取り組める内容になっている。小学校6 年生「電気の利用」に対応した10 時間分の授業案により構成されている。
今回(2024 年3 月13 日)、会員企業での取組み事例として富士電機株式会社様(以下、富士電機)の出前授業の様子を、以下に活用事例として紹介する。

2.背景

富士電機では、社長室の直下にSDGs 推進部を設置し、エネルギー・環境事業で創出する価値(クリーンなエネルギー、エネルギーの安定供給、省エネ、自動化)とSDGs 目標との関連性に基づき、五つの重点目標を設定するとともに、企業活動全体で取り組む経営基盤強化に関わる四つの目標を加え、九つの目標を設定している。
この重点目標の一つとして、次世代育成支援の取組みを行っており、地域貢献活動の一環として、各拠点において、小学生を対象にした「理科教室」の開催や、小学校向けの「出前授業」を実施している。理科の楽しさを知ってもらい、科学的な思考を身に付けてもらうことを目的としており、JEMA プログラムを小学校向けの出前授業の教材として活用いただ
いている。

3.出前授業の実践

3.1 地域とのつながり

「GIGA スクール構想」*が新型コロナウイルスの影響で前倒しになり、急速に対応が進む中、学校現場におけるICT(情報通信技術)の活用において、重要な役割を担う存在として「ICT 支援員」の活動がある。ICT 支援員は、教員が授業を進める際に、児童・生徒がコンピューターを扱う場面でティーチングアシスタントとしてサポートする「授業支援」を行うほか、「校務支援」「機器やネットワークなどの環境支援」「校内研修支援」等の場面においても重要な存在になっている。富士電機は、学校にICT 機器を納めている関係もあり、関係会社では学校支援に特化した部署を設置し、ICT 支援員を派遣している実績がある。
そのため、東京工場の所在地である日野市の2 校において、社員が教員の代わりに授業を行う出前授業が行われることとなった。

*GIGA:Global and Innovation Gateway for All「すべての子どもたちにグローバルで新しい教育の機会を」という意味。GIGA スクール構想:全国の児童・生徒1 人に1 台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み。

3.2 授業内容

小学校6 年生の児童を対象とし、単元「電気の利用」の最終授業である「電気を上手に使うにはどうしたらいい? プログラミング学習編」と題し、JEMAプログラムを活用した授業が実施された。

(1)導入
単元「電気」の振り返りとして、授業で学習した発電の方法、蓄電の方法に加え、身の回りの電気製品と関連付けながら、「電気が作られ、送られ、使われる」流れの中で、富士電機が製造している製品とその関連性が示され、社会で活用されている電気製品との結び付きが確認された。
授業用のスライドは、JEMA の教材を使用して単元の流れに沿いつつも、富士電機が製造する普段目にすることのない電気製品の紹介を交えていたため、児童に「授業と世の中がつながっていること」を感じてもらえる授業となっていた。

(2)実験(炊飯器の温度再現実験)
「おいしいご飯を炊くためには何が大切か」といった課題に対し、さまざまな解がある中で、炊飯過程の温度変化が重要であることから、実験器具を用いて、自ら再現する実験に取り組んだ。

教材のアレンジ例

実験に入る前に、仮説の根拠となるデータを取得する予備実験も児童が自ら行い、そのデータを基に温度再現の仮説を立て、2 回の本実験を実施した。
1 回目の実験では、理想の温度変化を実現することは難しかったが、自らが立てた仮説を忠実に再現し直すことで、うまくいかなかった実験結果を踏まえて、2 回目の実験に生かそうとする改善の工夫が見られた。
実験に使用したワークシートも、富士電機によるアレンジが加えられており、児童にとって使いやすい工夫が施されたものとなっていた。
実験では、ゲストティーチャーとして登壇するメンバーの他に、2 班に1 名程度、実験のサポーターとして社員が傍に控えていた。その社員も、ICT支援員として学校の状況を知っている若手の社員であったため、児童との距離感も近く、打ち解けた印象であった。
授業を提供した富士電機について、教員からは、ICT 支援員として日頃より学校の支援に携わってくれている会社であるとの紹介があり、児童に身近な存在として信頼関係が築けている状況がうかがえた。
日常的に学校の支援に関わる人材のため、学校や児童の状況を理解していることが、授業を実施する際、有利に作用していた。

3.3 支援体制

ゲストティーチャーの進行は、社員のパーソナリティーが生かされ、児童とのコミュニケーションが取れた生き生きとした授業運びであった。
登壇者役の社員は一人ではないため、授業を進行する上で軸となる部分を他の社員と共有していた。そして、登壇者個々の良さ(持ち味)を前面に出すことにより、質の高い授業が維持・展開されていた。
実験器具についても、富士電機より持参されており、さらなる工夫が加えられたものとなっていた。

3.4 出前授業による効果

児童には、いろいろな知識や経験を持つゲストティーチャーが、その道のプロとして話す言葉は、「生きた」情報として受け止められている。また、子どもたちが社会や仕事の関係を学ぶことによって、単に記憶する勉強だけではなく、学校で学んでいる教科と社会の接点を知ることができ、勉強することの意味について深く理解することにつながっている。
一方、企業にとっては、自社の事業内容や製品に対する理解を深めてもらうことで、自社のPR に加えて、地域への貢献にもつながるといった効果が得られている。

実験で使用したワークシート (1)

実験で使用したワークシート (2)

4.JEMA プログラムの活用の広がり

富士電機では、科学技術の素晴らしさやものづくりの大切さを伝えていくために、小学校で実施する「出前授業」の他に、中学校でキャリア教育として実施されている「職場体験」の一部として、JEMA プログラムを活用いただいている。中学生には、工場見学や製造実習に加え、炊飯器の温度変化の模擬実験を行うことで、制御の難しさや改善に向けた取組みの繰り返し(トライアンドエラー)の重要性についても体験できる場となっている。
また、小・中学校の教員を対象とした民間企業研修においても、授業案を体験いただく等、幅広い活用をいただいている。今後、工場・支部等で実施している夏休みの理科教室への活用も検討されており、さらなる広がりが期待できる。

5.さいごに

JEMA で開発した理科支援のプログラムは、全会員企業の共有財産である。
このプログラミング学習の授業案・教材は、小学校6 年生「電気」の単元向けに作成したものであるが、本稿で紹介した富士電機の活用事例のように、アレンジ次第では幅広い活用の可能性を持った教材となっている。会員企業による出前授業での活用の他、子ども向けイベント等、各社の特色を生かしたアレンジが加えられ、活用の広がりも増えつつある。
今後とも、広く会員企業の皆さまに、社会貢献としての理科教育支援活動を行う際のツールとしても役立てていただけると幸いである。

ゲストティーチャーによる授業の様子

(『電機』2024年6月号より転載)

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